金融の日々

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【債券デリバティブ講義】変動金利について②

【債券デリバティブ講義】日本円の代表的な短期金利の推移です。JGB 6Mには残り6カ月日本国債の利回りを表示しています。

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主な金融イベント

- 2007-2009年: サブプライム危機

- LIBOR不正操作: 2005-2009年

- 2013/4/4: 日銀の量的緩和の開始

- 2014/10/31: 日銀の量的緩和第2弾

- 2016/1/29: 日銀のマイナス金利導入

 

色々な種類の短期金利があります。お金を借りるならできれば一番低い金利で借りたいものですし、変に金利が上がらなくて、金利が下がるときは下がってほしいんですが、そうは問屋(銀行)が卸さないのが現状です。。

 

LIBORとその問題点

一番よく使われている変動金利がLIBORですが、複数の銀行で実勢よりわざと高く設定するなど不正操作が行われるという大事件がありました。。なぜそのような不正操作が行われたかというと

- 貸出金利として使われている融資量より、デリバティブ取引に使われている金額のほうが圧倒的に多い

- そのため、融資以外の目的で金利の設定を行うインセンティブが働きやすい

- 金利決定に複数の国の金融機関が関わっている(国際投資の水準に依存)

- 日本国外の組織が運営を行っており、融資の実態が見えないため検証が難しいため、不正がしやすい。

 

金融危機後に不自然なLIBORの動きが指摘され不正に関する調査が行われた結果として欧米の金融機関はLIBORの不正問題でCEOが首になったり、巨額の罰金を受けました。

銀行間金利LIBORで不正操作 米欧、摘発拡大も :日本経済新聞

ドイツ銀、独当局のリポートに反論 LIBOR不正操作問題で | ロイター

その後不正防止の取り組みが進み、また管理機関もロンドン銀行協会からICEに移りました。

 

しかし、個人的には根本的な解決が行われていない様に感じます。LIBORは国際金融機関間の融資実務の実勢を表すべきですが、そもそも円をあまり持っていない金融機関が何故か金利の決定権を大きく担いすぎています。簡単に思いつく対処法はあります。

 

- 金利決定法に適切な重みづけを行う

- LIBORを利用した融資残高のレポーティングとその公表の義務化

- 融資実務用途以外の動機でLIBORが決定される可能性の排除等

 

こういったことをしっかり実行する枠組みが必要だと思いますが、一方で金利決定の権利を欧米の金融機関が独占している状況を無くすようなことは難しいかもしれません。

 

TIBORについて

TIBORを変動金利指標として広く活用する際の問題点は、日本の銀行協会がTIBORを重要な変動金利指標として運用・管理する気がまったく無いことです。全銀協が何か問題があったときに一切の責任を負いかねると宣言しております。つまり、日本の銀行勢には第三者的から見て公平に管理された変動金利指標を作る気はさらさら無いという事ですね。。

 

経済先進国の銀行としての矜持が無いのか、単に興味がないのか。。

 

実はTIBORについてもLIBOR同様に疑いの目が持たれました。ですが、特に糾弾されたわけでも国内で罰則があったわけでもありません。それどころか、罰則を恐れて一切の責任を負いませんと声明を出す始末。これでは適正な運用に向かうどころか、非常に閉鎖的な日本の銀行とTIBORの運用方針という構図が浮かび上がります。

 

Short Prime Rateについて 

Short Prime Rateについては広く使われる変動金利という特性は持たず、人生に数度しか金融マーケットにアクセスしないような個人や、中小企業など融資市場に対して限定的なアクセスしか持たない情報弱者を対象とした金利です。

 

TONA金利について

TONAは本来1日だけの貸し借りの金利のため、銀行間の特殊な資金需要によって変動する。(上の図では6カ月物のTONAのスワップ金利を表示している)また、ゼロ金利政策下ではマーケットの規模が非常に小さく、信頼性に乏しくなるという特徴がある。

 

日本国債(JGB)の金利について

”実勢の”や、”市場”のという言葉が一番なじむのが国債金利水準であろう。国債はほぼすべての銀行、生命保険会社、投資信託会社、中小企業から個人投資家がアクセスできる開かれた市場であり、金融にかかわらず何か大きなイベントがあると敏感に金利が反応する商品である。

 

もちろん国債金利を指標とするにもいくつか問題もある。投資以外に担保として拠出するために買われ、金利が著しく下がる現象等が起こり、日銀が大量に買い付けしているため流動性が落ちてきているなど。流動性が低い環境では一部の投資家が売買をしただけで金利の水準が大きく上下してしまう。日本の投資家が大型連休に入っている期間も同様に金利が乱高下しやすくなる。

 

ただ、おおむね他の金利指標に比べると一番開かれた市場である点に注目したい。

 

LIBORやShort Prime Rate等は銀行側が”融資”する立場で裁量を持って決められる度合いが強いのに対して、JGBなどはより純粋な市場原理によって決まる。より公平な金利にはならないだろうか?

 

変動金利指標として求められるもの

こうやって考えてみると、いくつか金利の指標として求められる条件が浮かび上がってくる。

 

- 開かれた市場の金利を基準としていること

- 一時的な取引によって上下しないこと

- 一部の金融取引業者または担当者によって決まらない事

- 取引された金利の量に応じて重みづけすること

- 金融機関が融資の際に基準金利として使うこと

 

 

これらの条件を満たす金利指標は存在しない。特に金融機関が自ら基準金利の決定権を市場にゆだねる決定を行うことは想定しづらいが、半強制的により公平な変動金利指標の創設を進めたほうが良いのでは、と金融機関の横柄さ腐敗ぶりを見ると考える。

 

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